研究課題

軽金属(Al合金,Mg合金)の半溶融加工と半溶融加工を利用した組織制御

1. 半凝固処理金属素材の製造

金属溶湯から、鋳造材を作ることなく、連続的に製品を製造するプロセスが近年盛んに研究されている。このような連続製造プロセスにおいては、成形・加工工程に到達する前行程での金属素材の性状(微細化・均質化・等軸晶化)が最終の製品性状に重要な影響をおよぼすことが一般に知られている。
金属溶湯を冷却しつつ攪拌し、生成する樹枝状晶組織を破砕し、固相結晶粒と液相成分とが均一・微細かつ等方的に分散したいわゆる半凝固処理金属素材を製造する方法としては、これまで、(a) Flemingsらによって提案されたレオキャスト法(機械攪拌法)、(b) Winterらによって提案された電磁攪拌法があり、それぞれ実験室的あるいは半量産的規模での研究が行われている。しかし、レオキャスト法では、高固相率の処理材の製造が困難であり、高融点金属については工具材料として適切なものが見当たらないこと、電磁攪拌法では、同様に高固相率の処理材の製造が困難であり、また製造装置が大型化すること、などが指摘されている。
ここでは、上述の半凝固処理金属素材製造の問題点を解決すべく、木内らによって新たに開発されたせん断冷却ロール法(SCR:Shearing-Coling-Rolling)により、実用アルミニウム合金を対象とした半凝固処理金属素材の製造を試み、製品の内部組織や機械的特性などについて調査した結果を示す。

実験方法ならびに条件

SCR装置

せん断冷却ロール(SCR)装置は、回転する一つのロールと、そのロールの約半周を被う固定冷却シュー、それに処理材をロールからはぎ取るストリパーから構成されている。図はSCR装置の概略を示す。

実験に用いた金属材料

Pb-19.2%Sn合金のほかに、アルミニウム合金ではA2017・A5056・ADC12の3種類、鉄系合金ではFC20相当品・FC30・FCD40・SUS304・S45Cの5種類、過共晶Al-Si合金ではAl-20%Si合金・Al-29%Si合金の2種類を用いた。

手順

製造実験の手順は以下の通りである。
(a)所定量の金属試料を坩堝に用い溶解炉にて溶解する。
(b)ロールと固定冷却シューを予熱する。
(c)溶湯ならびにロール・固定冷却シューが所定の温度に達した後に、注湯する。
(e)排出された半凝固処理材を容器に収納し、大気中にて自然冷却する。

SCR装置の概略

SCR装置の概略

結果ならびに考察

(a)SCR処理中の様子

図は、半凝固スラリー状にSCR材が製造されつつある状態でロールの回転を停止させた際の、間隙内ならびに出側付近に残留した被処理材の様子を示す。図から、被処理材は間隙内の隅々まで充満し、出口において板状の高固相率スラリー状となって排出されていることがわかる。

CR処理中の様子

CR処理中の様子

(b)SCR材の内部組織

図は、工具温度TTを変化させた際のSCR材の内部組織を示す。ここでいう工具温度とは、ロール温度と固定冷却シュー温度とを平均した値である。図から、工具温度に対して内部組織は敏感であり、例えば、図(a)(c)で、無次元化工具温度TT/TL(TL=被処理材の液相線温度)が0.66から0.76へとわずか0.1(A2017の場合64℃に相当する)高くなるだけで、結晶粒の大きさは4〜5倍大きくなっていることがわかる。また、Al-29%Si合金の半凝固処理後の内部組織をも示す。このような極端にシリコンの含有率の高い過共晶シリコン合金に対しても、大きさ数十µmの塊状(粒状)の初晶Siが均一に分散した球状等軸晶の内部組織となることが判明した。

SCR処理材の内部組織

SCR処理材の内部組織

(c)SCR材の機械的特性

圧縮強度特性

図は、ひずみ0.3における真応力(変形抵抗値)σ0.3を代表値にとり、それぞれ比較して示す。以下のことがわかる。
(1)F処理・室温での圧縮試験では、SCR材、CQC材、CSC材の順に低くなっており、SCR材とCQC材では、SCR材の方がCQC材より10%強大きい値となっている。
(2)T処理・室温での圧縮試験において、k値はCQC材・CSC材の方がSCR材より大きく、n値に関してもCQC材・CSC材の方がSCR材より大きい。また、σ0.3については、SCR材の方がCQC材より約10%程度小さくなっている。
(3)450℃での圧縮試験では、k値とn値は、SCR材・CQC材・CSC材ともほぼ同じ値となっている。

SCR材と鋳造材の変形抵抗の比較

SCR材と鋳造材の変形抵抗の比較

圧縮後の試験片側面のあらさ

A2017・F処理(処理材そのまま)・室温圧縮試験後の試験片側面(自由表面)の周方向あらさを図(a)に示す。SCR材はRmax=25µmであり、CQC材はRmax=40µm、CSC材はRmax=120µmとなっている。図(b)は、T処理(熱処理)後の同様な周方向あらさを示す。この場合も、SCR材の表面あらさが最も小さい値となっていた。

圧縮後の試験片側面(自由面)のあらさ

圧縮後の試験片側面(自由面)のあらさ

2. 半溶融押出し加工百態

2-1. 緒言

半溶融状態の観察金属が羊羹になってしまう。これは、半溶融状態にある金属の硬さを象徴的に言い表したが、それでは半溶融状態とはいかなるものなのだろうか。金属の塊を半溶融状態にまでに加熱し冷却すると、固相と元液相の組織を作り出すことができる。また、半溶融状態から、冷却しつつ撹拌することによって金属の粉末を作ることもできる。半溶融処理したこのような試料を観察することで、金属の半溶融状態の中身が推察できる。図1は、アルミニウム合金を半溶融状態に加熱し、攪拌冷却して作製した粉末を示す。これから、半溶融状態は、(a)固相粒が集合した状態であり、(b)固相粒と固相粒の間に液相があり、(c)固相粒は概して球状である、ことがわかる。
半溶融押出し加工の模式図半溶融押出し加工は、半溶融状態にある材料を、温度管理されたダイス内を通過させ、所望する寸法・形状の製品に加工する方法である。半溶融押出し加工を模式的に描くと図2のようになる。コンテナに挿入された固体ビレットは、温度の上昇とともに、球状の固相粒とそれを取り囲む液相とが混在した半溶融状態になる。材料がダイスを通過中に、液相は、材料の内・外で潤滑の役目を果たすと同時に加圧凝固し、一方、固相粒は、ダイス入口近傍では球状を保つが、ダイス通過中に液相の凝固の影響をうけ、展伸する。半溶融押出し加工は、固相状態だけの冷間や熱間押出し加工と違って、液相が存在するために、液相と固相の変形・流動・拡散・接合・析出などの効果が強調され、様々な形態の押出し加工が可能となる。
半溶融押出し加工の研究は1970年初期、福岡、木内ら1, 2, 6)によって始められた。当初、半田11)、アルミニウム合金3, 4, 5)などの低融点材料や実験室で作られた合金材料を使って行われたが、最近では、鉄合金34, 35, 39, 40, 41)、マグネシウム合金23, 37, 42)、金属とセラミックス粒子との複合材料19, 31)など、高融点材料や実用合金にまで広がりを見せている。また、有限要素法を使った半溶融押出し加工の数値解析の研究20, 21, 22, 32, 33, 36)なども行われるようになってきている。
本講義では、主に、アルミニウム合金を被加工材に用いた押出し加工において、半溶融がゆえに成せる技のいくつかを紹介する。

2-2. 難加工アルミニウム合金の棒・線・管の加工 6, 7, 8, 14, 16, 24, 25, 26, 30, 38)

冷間・熱間押出し加工においては、被加工材の材質からみて、押出し加工し易い材料とそうでない材料とがある。例えば、アルミニウム合金の場合では、JIS規格の1000番系や6000番系は押出し加工し易い材料であるが、2000番系や7000番系の材料はジュラルミンあるいは超超ジュラルミンと呼ばれ、合金化率が高く、押出し加工し難い材料である。このような難加工材料を従来の冷間や熱間で押出し加工するには、小さなリダクションで加工を繰り返し行う必要があり、したがって工程数が多くなる。半溶融押出し加工では、このような難加工材料の押出しに対して有利である。
半溶融押出し加工条件ここには、実験室で作製したAl-5.7%Cu二元合金(2000番系のジュラルミンに近い成分)および実用合金A7075を用いて半溶融押出し加工を行った例を示す。両材料とも、凝固終了点から凝固開始点までに至る半溶融温度域が100℃程度と広いために、半溶融状態を温度によって制御することは容易である。ビレットの形状・寸法およびダイスの形状・寸法を表1に示す。なお、Al-5.7%Cu合金は鋳造にて作製した丸棒材を切削しビレットに仕上げたものであり、A7075は市販の押出し棒材を所定の寸法に切削したものである。ここで注意してほしい点は、ビレットに用いた材料は、予め内部組織が球状化処理された材料ではなく、デンドライト組織や熱間加工組織が残る材料であるが、筆者らの研究では、このような材料であっても、半溶融状態に保持することで固相が球状化することを確認している。半溶融押出し加工を行う上で考慮したことは、(a)液相の凝固がダイス内で行われることから、ダイスのランド(ベアリング)部を熱間押出し加工に比べ長くしたこと、(b)ダイスの温度管理が重要であることから、ダイスを空冷できる構造にしたこと、(c)ビレットをコンテナに挿入する際、ビレットの温度低下を防ぐため、予めビレットをコンテナに挿入しておき、コンテナごと一体に加熱したことである。

(1)製品性状

A7075の半溶融押出し加工製品例A7075を、温度549℃(固相率約90%)で押出した際の製品例を図3に示す。直径40mmのビレットから、直径2mm(押出し比400)の線、または、直径10mm肉厚0.5mm(押出比107)の薄肉管が一回の半溶融押出し加工により製造できる。いずれの場合も外表面は平滑であり、また製品の内部においても空隙などの欠陥はなく良好な製品となっている。

(2)押出し荷重

押出し荷重と変位の関係半溶融押出し加工の際の押出し荷重と変位の関係の一例を図4に示す。被加工材料はAl-5.7%Cu合金である。図から、(a)通常の熱間押出し加工の荷重に比べ、半溶融押出しでは半分以下の荷重で押出されること、(b)半溶融押出し加工で、ビレットの固相率が概略80%以下の押出しになるとピーク荷重が現れなくなること、などがわかる。また、ビレットの固相率が50%以下の押出しの場合に荷重の立ち上がりが遅れるのは、余分な液相成分が先に押し出されるためであり、また固相率の低下とともにその傾向が顕著となる。この結果は、被加工材料がダイス内を通過する際には液相成分の最適値が存在することを示している。

(3)製品の特性

図5は、押出し時のビレットの固相率と引張り強さおよび伸びとの関係を示す。被加工材料はAl-5.7%Cu合金である。図から、(a)固相率が低い押出し製品の引張り強さは、固相率の高い押出し製品のそれに比べ約3分の1程度になる。(b)伸びに関しては、固相率の高い低いに関わらず、20~30%の範囲である。(c)ただし、引張り強さに関しては、ダイス温度の影響は鈍感であるが、伸びに関しては敏感であり、ダイスをコンテナ(ビレットを含む)に取り付け同時に加熱する方法(ダイスでの材料の冷却速度が遅い)では、固相率の低下とともに伸びは減少傾向を示すのに対し、加熱中はダイスはコンテナから離しておき、コンテナだけを加熱する方法(ダイスでの材料の冷却速度が速い)では固相率の低下とともに伸びは横ばいかやや上昇する傾向を示す。
図6はAl-5.7%Cu合金を半溶融押出し加工した製品の横断面中心部の内部組織を示す。半溶融押出し加工では、結晶粒が押出し方向に多少展伸され異方性をおびてくるものの、依然結晶粒の判別は可能であり、冷間・熱間押出し加工において一般に観察されるほどの繊維状組織の発達は見られない。固相率が0%の押出しでは、中心部に鋳造組織が残留していた。  

ビレット固相率と製品の引張り強さ・伸びの関係半溶融押出し加工製品の内部組織

2-3. 積層型複合棒・線材の製造 8, 9)

材質の異なるアルミニウム合金どうしを同心円状に積層させる複合棒材の製造は、冷間・熱間押出し加工にても行われているが、材質の組み合わせには制限があり、極端に材質の異なる組み合わせの場合には加工ができない。本節では、被覆材に純アルミニウム、芯材には高強度アルミニウム合金を用い、芯材が半溶融状態となる温度で押出し加工を行う、積層型複合棒材の製造について紹介する。具体的には、A1050を被覆材に用い、A7075、A5056、A2011を芯材に用いた。材料の組み合わせは、耐食性の劣るA7075、A5056、A2011に対して、A1050を被覆することで表層部の耐食性の改善をはかるねらいがある。
ビレットは、(a)被覆材となる円筒状のA1050に、芯材となる中実丸棒のアルミニウム合金を単純にはめ込み作製したものと、(b)被覆材となるA1050の溶湯に、所定の寸法に仕上げた芯材のアルミニウム合金を浸漬し、それを旋盤加工にて仕上げ作製したものを用いた。いずれの場合も、ビレットの状態では芯材と積層材は簡単に引きはがすことができる軽い接合であった。薄肉の被覆材ビレットを作製する場合には(b)を採用した。また、芯材の固相率を低くした押出しの場合には、被覆材と同じ材質でできた底付きのビレットを用いた。ビレットの形状・寸法を図7に、実験条件を表2に示す。ビレットの被覆率あるいは製品の被覆率の定義を、被覆材断面積を全断面積で割った値で表した。なお、被覆材に用いたA1050は、芯材に用いた各アルミニウム合金より融点(溶融開始温度)が高いために、今回の実験では常に固相状態であった。材料の組み合わせ方法によっては、被覆材が半溶融状態で芯材が固相状態、あるいは、被覆材も芯材も両材料とも半溶融状態であってもよい。

積層型複合棒材押出し用ビレットの寸法・形状積層型複合棒材の半溶融押出し加工条件
積層型複合棒材製品の断面積層型複合棒材製品の界面近傍組織

図8は、被覆材がA1050、芯材がA2011、ビレットの被覆率が0.1、押出し時の芯材の固相率が90%(約590℃)、押出し比がそれぞれ16(φ40→φ10mm)、25(φ40→φ8mm)、44(φ40→6mm)、の半溶融押出し加工した製品の断面を示す。円周方向に均一な厚みに被覆されていることがわかる。
図9は、被覆材がA1050、芯材がA7075、ビレットの被覆率が0.75、押出し時の芯材の固相率がそれぞれ87%(約563℃)、57%(約620℃)、12%(約632℃)、の半溶融押出し加工した製品の、被覆材と芯材の界面近傍での組織を示す。固相率の低下とともに境界が判然としなくなっている。このことは、界面を通して芯材と被覆材の材料間での相互の拡散が活発化し、界面における両者の接合が良好となっていることを示している。
積層型複合棒材の製造において、安定した押出し加工を行うためには、ビレットの被覆率と製品の被覆率とが等しくなることが重要な条件となる。そのためには、芯材と被覆材との変形抵抗を同程度に合わせる必要があるが、金属の半溶融状態は、温度によって材料の変形抵抗を大きく変化できることから、芯材と被覆材の変形抵抗を同程度に合わせ易い特徴がある。

2-4. 粒子強化複合棒材(PRM)の製造 8, 10, 12, 27)

金属材料やセラミックス材料などの単一材だけでは機能と価格に制約があり、様々な使用形態に適合しない場合が出てくる。例えば、自動車の強度と軽量化の問題など、相反する特性を単一材で補うことは困難である。こうした問題を解決するために、異なる機能を持つ材料どうしの複合化が試みられているが、まったく異なる材料を複合化することは、たとえ鋳造法であっても容易ではない。また仮に製造できたとしても、金属とセラミックスが複合された材料を必要な形状・寸法に加工することは困難である。半溶融押出し加工は、粒子強化複合材料の製造とその加工に極めて有力な手段になりうる。
粒子強化複合棒材製造におけるダイス内の材料の変形・流動本節では、セラミックス粒子が金属(合金)マトリックス中に均一かつ高濃度(数10%)に含有する棒・線材の製造例を紹介する。金属素材(マトリックス材)としてA7075、A5056、A2011の粉末を用い、強化粒子には粒径が#60~#1500のアルミナ粉末を用いた。製造法は、(a)室温で金属粉末とアルミナ粒子を混合し、(b)ビッレト形状に圧粉成形し、(c)コンテナに挿入し、(d)金属を半溶融温度にまで加熱して押出す、方法である。素材に金属粉末を用いているため、通常の冷間・熱間加工では焼結過程が必要となるが、本法では金属の半溶融状態を利用し加工するために不要である。図10は、半溶融押出し加工におけるダイス内での材料の複合化の様子を模式的に示す。すなわち、(a)ダイス入口近傍においては、強化粒子と液相を伴った金属粉末があり、未だ加工初期の段階のために空隙も存在する、(b)液相は、加工の進行とともに空隙に進入し、ダイスから冷却を受け、加圧凝固する、(c)同時に、固相も加工され展伸し、(d)ダイス出口では空隙はなく、強化粒子、固相、元の液相が一体となって押出される、ことを示している。以下、半溶融押出し加工により製造された粒子強化複合材料の特性について示す。
図11は、本製造法により得られた粒子強化複合棒・線材の一例である。図のように表面光沢のある健全な棒・線材が一回の半溶融押出し加工によって容易に製造できる。
図12は、シャルピー衝撃試験後の破面のSEM観察結果を示す。図は、[A5056+アルミナ粒子(#60、Vp20%)]複合棒材の例で、強化粒子がマトリックス金属中に埋没している様子と、延性破壊特有のマトリックス金属のディンプル破面が観察される。

粒子強化複合棒材の製品例
粒子強化複合棒材製品の破断面
粒子強化複合棒材製品の変形抵抗と粒子含有率との関係粒子強化複合棒材製品の摩擦量と粒子含有率との関係

図13は、押出された製品の室温での圧縮変形抵抗(10%真ひずみ時の真応力)と強化粒子の含有率との関係を示す。強化粒子の含有量が増加するにつれて変形抵抗も高くなる。細かな強化粒子が含有された複合材料ほど、同一の含有率であっても高い変形抵抗を示す。圧縮試験温度が300℃、450℃の高温でも、強化粒子が含有された複合材料は、含有しない場合に比べ相応に高くなることを確認している。
粒子強化複合棒材製品の曲げと粒子含有率との関係
図14は、アルミニウム基粒子強化複合棒材の摩耗量と強化粒子の含有率との関係を示す。強化粒子の含有率が10%程度の複合材料は、鉄系合金のS45CやSUS304とほぼ等しい耐摩耗性となる。これら粒子強化複合材料は、図13の特性結果ともあわせて、耐熱強度部品あるいは耐摩耗性部品としての利用が大いに期待される。
図15はシャルピー試験結果を、強化粒子の含有率と曲げの状態とを対比して示す。強化粒子の含有率の増加に比例し、複合材料の曲げ破断角度がよい対応を示している。
上述の一連の特性試験の結果は、バラツキも少なく、予想通りであり、したがって、半溶融押出し加工による粒子強化複合材料の製造が安定的に行われたことを示している。

2-5. セラミック繊維強化複合棒材(CFRM)の製造 15, 17, 18, 29)

炭化珪素短繊維を繊維材とし、アルミニウム合金をマトリックス材とした繊維強化複合材料の、半溶融加工による製造法について以下に示す。
炭化珪素短繊維強化複合棒材製造の模式図本製造法は、(a)CFRMグリーンの作製、(b)CFRM素材(ビレット)の製造、(c)CFRMの加工の3行程から構成される(図16)。具体的には、マトリックス金属材としてA5056粉末(#200)を用い、強化繊維には炭化珪素(SiC)短繊維(直径約φ0.015mm・長さ約3mm)を用いた。一般に、アスペクト比が60~70以上の短繊維は、ファイバ-ボ-ル状(毛玉状)になっており、このままの状態ではマトリックス金属粉末と繊維とが均一に分散した混合体を得ることはできない。そこで本実験では、330cSt程度の粘度の溶媒中にこの炭化珪素短繊維を浸漬し、繊維が損傷しない程度に軽く撹拌することによってまずファイバ-ボ-ルを解きほぐした。次に、これにマトリックス金属粉末を所定量混入攪拌し、スラリ-状の混合物を作製し、延伸法により、短繊維を一方向へ整列させつつ棒状に成形したCFRMグリーンを作製した。次に、得られた棒状CFRMグリ-ンを、加熱による溶媒除去後に所定量を密閉鍛造金型内に整列充填し、半溶融鍛造を行い、円柱状の稠密なCFRM素材(ビレット)を製造した。次に、上述の円柱状CFRM素材(ビレット)を、再度、マトリックス金属材の半溶融温度まで加熱し、半溶融押出し加工を行い、棒・線・板状のCFRM製品を製造した。
図17は製造されたCFRM棒材の外観ならびに製品横断面における繊維の分布状態を示す。繊維間にはマトリックス金属が隙間を作ることなく侵入し、繊維は、断面全体に高密度にかつ均一に分布し、しかも、押出し方向に整列し埋設されている。
図18は、半溶融押出しにより得られた製品例を示す。図19は、同製品の中央部付近を切り出し、マトリックス金属を薬品により溶出し、セラミック繊維だけを抽出した結果を示す。図から、100前後のアスペクト比を有する繊維が多く観察されるが、これは、当初予想した通り、ビレットの状態で一方向に整列した繊維が、マトリックス金属の流線にそって押出されたため破損が比較的軽微であったことを表している。この100前後のアスペクト比は、単純モデルによって算出した繊維強化を有効ならしめる限界アスペクト比の数十倍大きな値になり、繊維のアスペクト比だけでCFRM材の強さが決定されるならば、十分良い値である。

炭化珪素短繊維強化複合棒材の製品例ならびに内部組織炭化珪素短繊維強化複合棒材製品から抽出した炭化珪素繊維

2-6. 金属繊維強化複合棒材(MFRM)の製造 13, 20)

チタン短繊維の形状本節では、半溶融押出し法による金属繊維強化複合材料(MFRM)の製造の可能性を探る目的で、アルミニウム合金中にチタン短繊維を分散させたチタン短繊維強化複合棒材の製造について述べる。
マトリックス材には、2,3のアルミニウム合金粉末を用い、繊維材には、チタン短繊維を用いた。このチタン短繊維はチタン原板を切削加工した際の切削屑として得られたもので、長さ方向に湾曲し、三日月上の断面形状を持っている(図19参照)。なお、マトリックス材に用いた各金属粉末ならびにチタン短繊維は使用するに当たってコーティングなどの表面処理は行っていない。
製造法は、(a)室温で金属粉末とチタン短繊維を混合し、(b)ビッレト形状に圧粉成形し、(c)コンテナに挿入し、(d)アルミニウム合金の半溶融温度で押出す、方法である。
チタン短繊維強化複合棒材の製品例得られたMFRM製品の一例を図20に示す。押出し比が100(φ40→φ4mm) の丸棒、押出し比が約13の厚さ5mm、幅20mmの矩形断面棒、あるいは、押出し比が約44の外径10mm、肉厚1mmの管など、表面光沢のある健全な棒・線・管を容易に製造することができた。
[A5056+チタン短繊維]複合棒材のチタン短繊維の含有率が20%の製品の内部組織を図21に示す。図から、断面全体にチタン繊維が分布している様子がわかる。図21(c)はマトリックス材とチタン繊維の分布の様子を拡大して示す。凹凸のある複雑な形状を有するチタン短繊維にもかかわらず、マトリックス金属材が隅々まで充満している様子が観察できる。
[A5056+チタン短繊維]複合棒材の、機械的特性(伸び・縦弾性係数・硬さ・摩耗量)は、チタン繊維の含有率の増加に比例し、硬さや弾性係数は高くなり、摩耗量や伸びは低くなり、複合則に則しチタンの特性に近づいてくることを確認した。
なお、本例に示すように、アルミニウム合金とチタンは、耐熱性・耐摩耗・高剛性・低熱膨張性などの機械的特性に優れた複合材料となるが、その他にもチタンは組み合わせる材料によって、チタン/ニオブ合金の超電導性、鉄/チタン合金の水素吸蔵性、チタン/ニッケル合金の形状記憶性といった特殊機能複合材料の基材に用いられることが知られている。図22は、(a)繰り返し半溶融加工、あるいは、(b)半溶融加工と熱処理の組み合わせにより、第二の材料がマトリックス材料とが次第に合金化していく様子を模式的に示す。このように、拡散を利用した合金化による特殊機能複合材料の製造に関しても半溶融加工の適用が大いに期待される。

チタン短繊維強化複合棒材製品の内部組織繰返し半溶融押出し加工によるマトリックス金属と添加金属との合金化の様子

2-7. 結言

本講義では、半溶融であるがゆえに達成可能な、主にアルミニウム合金を使った押出し加工による製造のいくつかを紹介した。
半溶融押出し加工の長所としては、(a)加工機械・設備の小型化、(b)難加工材料への適用、(c)金属溶湯からの連続一貫製造の可能性、(d)各種複合材料の製造の可能性、を挙げることができる。それに対し短所は、(a)加工中の液相と固相の流れの制御の困難さ、(b)工具等の温度管理の困難さ、が指摘できる。
金属の半溶融状態は、固相と液相の二相があるがゆえに、制御の困難さは伴うものの、工夫次第で半溶融押出し百態も夢ではないことを筆者は確信している。

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